梅雨明け直後の強烈な暑さこそ和らいだものの、依然として30℃を超える猛暑が続いている。
年始めに父が急逝して以来、空き家同然になっていた我が実家。このたび「リフォーム」とはいかないまでも外壁や屋根のリペイントを行う運びとなり、先日、その工事の工程上わたしが立ち会わなければならない日があった。
およそ半日を実家で過ごすことになるのだが、それには見逃すことの出来ない致命的な問題がある…そう、実家にはエアコンが無い。
わたしの再三の忠告にも拘らず「そんなもんいらん」の一点張りでエアコンを購入しなかった父。そのツケが回りまわって今わたしの元にお届けされたというわけだ。勘弁して欲しいぜ全く。
というわけで、わたしがどのようにしてその半日を乗り越えたのか、今回の晩酌ではそんなことをツラツラと書いていこうと思う。ノリで「秘訣3選」などと偉そうなタイトルを付けてはみたが、実際はあくまで晩酌ついでの戯言である。決してまともなHow toを得ようなどとは思わないで欲しい。
暑さを我慢せず適切にエアコンを使うべし
まず大前提として、エアコンが無い人は今すぐ買おう。経済的な問題があるという方もおられるかもしれないがコレは死活問題だ。命が惜しければ全力を投入すべき。
大半の人は「何言ってんだコイツ当たり前だろ」とお思いだろうが、わたしの父のような頑固者も少数ではあるが存在するんだよ。そして確かに、暑い中で暮らしているとその状態に慣れてしまうということはある。
実際わたしはその半日を過ごす中で、最後には暑さに対して結構平気になってしまっていた。だが、世間の医者に言わせるとその状態が危険らしい。慣れたつもりで身体には結構なダメージが入っていて、寝ている間に熱中症…なんてよく聞くじゃない。
自分を過信しすぎず、適切にエアコンを使いながら夏を乗り切っていこう。
秘訣1「腕を水で濡らす」
工事担当者と事前に打ち合わせした上で、その日は9時に実家集合ということになっていた。
もちろんわたしは9時までに到着したが、担当者は30分遅れたにもかかわらず「あ、どうも~」と余りにナチュラルな雰囲気で登場し、嫌味ではなく逆に感心してしまったり。まぁのんびりしててもいいよね別に。
さぁ、これで担当者と外壁職人の指示通りにいくつかの用件をこなしてしまうと、あとはひたすら待ち時間と戦うのみ!
帰っても良さそうなものだがそこはそれ、この日行っている作業の進捗によっては、家の所有者であるわたしに確認を取らなければ進められない事態が発生する場合もあるため、一応終わるまでいて欲しいとのことであったのだ。
時刻は10時手前ぐらいだっただろうか。
一段落して居間に腰を落ち着けると、来たばかりの時はそれほど感じなかった暑さがジワリジワリと本気を出し始めているのを感じた。庭の木ではセミが、試すように途切れ途切れで鳴いている。二階にある更にムッとした暑さの父の書斎から、ヘミングウェイの中編「老人と海」を拝借してきた。
読み始める前に洗面所で腕全体を水をしめらせ、涼を取る。水はほんの軽くだけ拭き取り、あとはのんびり自然乾燥させるようにするとこれだけでも結構涼しい。
秘訣2「首を水で濡らす」
見出しを見てガッカリしたあなた。だから「まともなHowtoを得ようなどとは思わないで欲しい」と言ったじゃないか。すいませんこの程度のハナシなんです。
10時半になった。
職人が足場を歩く足音が聞こえる。時おり何かにガツンとぶつかって「痛っ」みたいな声が聞こえて心配になる。
エアコンの無い室内は暑いが、当然、外の暑さに比べれば屁でもないといった程度。その屋外で朝からもくもくと作業している職人の体力たるや!家の中で座って本を読んでいるわたしがこんなに参ってしまっているというのに、おそらくわたしより少し年上であろう彼は連日こんな炎天下でお仕事をされているのだろう。本当に尊敬する。同じ人間とは思えない。
差し入れとして来がけに買ってきたペットボトルのお茶が何本か余り、冷蔵庫に入れてあったのを出してきた。時刻は11時を回り一層暑い。強烈に照らす太陽のせいで、室内灯を付けていても薄暗く感じる。夏のコントラストだねぇ。
少し動くと汗が吹き出し、首元がベトついてきた。今度はキッチンにてサッと首を洗うと手元のタオルでこれまたごく軽めにふき取り、後は自然乾燥にまかせる。腕の場合と同じく気化熱で冷やす単純な作戦だが、シンプルな故に確実に効く。首周りには太い血管も多いしね。
今日の晩酌
では、そろそろ呑もう。
そういえば今回の晩酌は記念すべき10回目だったんだなぁ。それなのにいつもによりをかけてくだらん話を展開してしまってしているが…まぁ、これも晩酌らしくて良きかな。
カツオのたたき
いつものスーパー「ツルヤ」のたたきは安くて旨い。
水にさらした玉ねぎスライスの上にたたきを並べ、薬味に九条ネギ・ニンニクを散らした。ミョウガやショウガなども合うが今回は無し。
タレのポン酢にはあらかじめかつお節を浸して香りづけしてあり、隠し味にしょう油を一垂らししてある。旬からは外れているがさっぱりとして夏にはピッタリだ。
待ち時間のおとも「老人と海」
今回はいつもの「晩酌のおとも」としてではなく、この半日の待ち時間に読んだいわば「待ち時間のおとも」であるヘミングウェイの老人と海をご紹介。
漁師である老人が、巨大なマカジキと長い一戦を交える中で自分の人生を振り返り、生きること、死ぬこと、そういった根源的な哲学に思いを馳せていく。
もちろんわたしは漁師の経験などないのに、ヘミングウェイの文章が成せる業なのか妙~にハッキリとした光景が頭に浮かぶようだった。老人とマカジキを繋ぐ綱の手さばきや、波の上を大きく跳ねる魚体。まるで映像を見ているかのような…あ。
マグロだ。
これ冬ら辺によくやってるマグロ漁のドキュメントのやつだ。
というわけで「冬ら辺によくやってるマグロ漁のドキュメント」という言葉にピンときた貴方なら、まるで見てきたように読めちゃう本。漁そのものの描写や老人の人生哲学も十分読み応えがあるが、何より老人とマカジキの表裏一体となった関係性に強く心惹かれた。
待ち時間ちょうどピッタリに読み終えたが、その内容と、いつ終わるともしれない作業をエアコンの効かない部屋で孤独に耐え続けるわたしの状況が不思議とシンクロし、なんだか思い出深い作品となった。
秘訣3「動かない」
老人とマカジキの戦いも佳境に差しかかり、時刻は正午を迎えようとしていた。
部屋の中は「ザ・エアコンの無い夏」の様相を呈しており、なんならその熱気で景色も揺らめいているように感じる。全身に加えて本を持つ手までも汗ばみ、こうなるともう腕や首を冷やしたぐらいでは気休めにしかならない。
確か作業は2~3時間で終わると言っていたハズ…ならばもうすぐなのでは…と、たまらず外で作業してくれている職人の元に確認に行くとその返答は
「1時までかかる」
とのこと。くぅっっ…!あと一時間も…!!
いや、決してあなたのせいでは無いんだ、こんな炎天下で作業をしてくれているんだから。違うあくまでわたしの忍耐力の問題なんですスイマセン。待ちますいくらでも待ちますこうなったら老人と海も最後まで読んじゃいます。
そして最後の1時間を乗り越える作戦はズバリ「動かない」ということである!
最早作戦でも何でもないが、とにかく運動量を最低限に収めるべく必要なものを身の回りに集め、トイレを済ませ、居間のテーブルの前に不動の陣を敷いた。もうここを一歩も動くまい…なぜなら動いた瞬間体温が上がり俺は死ぬから。動いていいのはゴキブリが座った脚から体を這い上がり口に入って来た時だけだその時だけは動いていいと神様も許してくれている。
そして心頭を死ぬほど滅却しながら老人と海を読んだ。ネタバレしたくないので詳細は話せないが、いわゆる「サメのパート」だね。
絶望の大海原を行く老人の気持ちが、現在この部屋で苦行に耐えている自分と時空を超えてハイパーリンクし、手に取るように伝わってくる。本当は全然違う状況なんだけどいいじゃないか!だってリンクしちゃったんだからね!
そして、結果的に「動かない」という作戦は思った以上の効果を発揮した。
アレコレ済ませて不動の陣を敷いた直後はそれこそ汗が噴き出てメルテッドマンと化していたものの、しばらくすると気持ちと共に体温も落ち着きを取り戻し、なんとも平穏な時間を過ごすことができたのである。
しかしこれは冒頭に書いた通り「身体が暑さに慣れてきた」という状況も含まれており、このまま余裕こいて我慢し続けていたならワンチャン熱中症になっていたかもしれない。
最後に
「身体が慣れてきた」とはいえ暑いものは暑い。
1時になった瞬間に颯爽と戸締りをキメ、職人に心からの挨拶をし、飛ぶように家に帰った。車のエアコンがとんでもなく心地よくて熱いパトスが漲った。
温暖化云々については様々な意見があるのでここでは触れないが、どんなマターが影響しているにしろ昔より暑くなっているのは事実。自分自身が気をつけるのはもちろん、お子さんだって余裕で遊びまわらせてちゃいけないぜ!適切に休憩させて、塩分・水分摂取を忘れずに。
夏はまだしばらく続く。みなさんもお気をつけて。